リモートチームの「働く環境」から生まれる一体感:共有のメリットと具体的な進め方
リモートワークにおける働く環境の「見えにくさ」という課題
リモートワークが広く普及し、多くのチームが場所にとらわれずに働く環境に適応しています。しかし、オフィスで顔を合わせていた頃とは異なり、同僚が「どこで」「どのように」働いているのかが見えにくくなっている側面もあります。この働く環境の「見えにくさ」は、メンバー間の相互理解の機会を減らし、結果としてチームの一体感やエンゲージメントに影響を及ぼす可能性が考えられます。
単に業務上のやり取りをするだけでなく、メンバーそれぞれの個性や働き方の背景を知ることは、チーム内の人間関係を円滑にし、より深い信頼関係を築く上で重要な要素です。本記事では、リモートチームにおいて働く環境を意図的に共有することが、どのように一体感やエンゲージメントの向上に繋がるのか、具体的な方法と導入のポイントをご紹介します。
働く環境共有がチームの一体感・エンゲージメントに貢献する理由
メンバーが自身の働く環境をチーム内で共有することには、いくつかのメリットがあります。
- 相互理解の深化: メンバーがどのような場所で、どのような状況(例えば、自宅の一室、コワーキングスペース、小さな子供がそばにいる、など)で働いているのかを知ることで、それぞれの状況への理解と共感が生まれます。これにより、コミュニケーションの際に配慮が働きやすくなります。
- 人間味の発見: デスク周りの工夫、お気に入りの小物、窓からの景色など、働く環境にはその人の個性や趣味嗜好が表れます。これらを共有することで、ビジネスパーソンとしてだけでなく、「一人の人間」としての側面が見え、親近感が湧き、人間関係がより豊かになります。
- 共通の話題の創出: 共有された環境から、思わぬ共通の趣味や関心事が見つかることがあります。これが新しい雑談のきっかけとなり、非公式なコミュニケーションを活性化させます。
- 心理的安全性の向上: 自分の働く環境というプライベートな情報の一端をチームに開示することは、信頼の表れでもあります。こうしたオープンな雰囲気が、チーム全体の心理的安全性を高める一助となります。
- 配慮とサポートの促進: メンバーの働く環境を知ることで、例えば特定の時間帯に騒音が入る可能性があるといった状況を把握し、そのメンバーへの配慮やサポートが必要かどうかの判断に繋がることがあります。
これらの要素は複合的に作用し、結果としてチーム内のコミュニケーションを円滑にし、相互の繋がりを強め、一体感やエンゲージメントの向上に貢献すると考えられます。
具体的な働く環境共有のアクティビティとツールの活用方法
働く環境を共有するための方法は、大掛かりなものでなくても実施可能です。既存のコミュニケーションツールなどを活用して、手軽に始めることができます。
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バーチャルデスクツアー/オフィスツアー:
- 各自が自分のデスク周りや働くスペースを写真数枚や短い動画で撮影し、チーム内のチャットチャンネルや共有ドキュメントで紹介します。
- お気に入りのアイテムや、働く上での工夫などを一言添えると、より個性が伝わります。
- 活用ツール: Slack, Microsoft Teams, Zoom(画面共有機能)、Confluence, Notionなどのドキュメント共有ツール。
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「私の働くお供」紹介:
- デスクにあるお気に入りのガジェット、文房具、観葉植物、飲み物など、働く上で欠かせないアイテムを紹介し合います。
- アイテムにまつわるエピソードを添えることで、さらに話が弾みます。
- 活用ツール: チャットツール、共有ドキュメント。
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「ご当地自慢」や「窓からの景色」共有:
- それぞれの居住地の特徴(特産品、景色、名所など)や、窓から見える景色を写真とともに紹介します。
- 地域性の違いは、多様性を理解し、相互に関心を持つきっかけとなります。
- 活用ツール: チャットツールの専用チャンネル。
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働く環境にまつわる雑談タイム:
- 定例ミーティングの開始数分や、休憩時間などに「今日の働く環境」について軽く話す時間を設けます。
- 天候や気温、部屋の快適さなど、その日の気分に合わせたカジュアルな話題提供になります。
- 活用ツール: オンライン会議ツールのブレイクアウトルーム機能なども活用できます。
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専用チャネルの設置:
- Slackなどのチャットツール内に「#my-work-setup」や「#remote-env」といった専用チャンネルを作成し、メンバーが自由に働く環境に関する投稿や写真共有、質問などができるようにします。
- 非公式な情報交換の場として機能し、緩やかな繋がりを育みます。
- 活用ツール: Slack, Microsoft Teamsなどのチャットツール。
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プロフィールページへの追加:
- 社内で使用しているプロフィールツールや社内wikiなどに、働く環境やデスク周りの写真、お気に入りのアイテムといった項目を任意で追加できるようにします。
- メンバーの情報を一覧できる場所にあると、新しいメンバーも過去の投稿を遡って見やすく、チームへの馴染みやすさにも繋がります。
- 活用ツール: Confluence, Notion, 社内向けSNSなど。
これらのアクティビティは、特別な新しいツールを導入することなく、多くの企業で既に利用されているコミュニケーションツールやドキュメント共有ツールを活用して実施できるため、比較的容易に導入を検討できます。費用対効果も、追加コストがほとんどかからないため高いと考えられます。
導入・活用のためのポイントと懸念事項への対応
働く環境共有を成功させ、チームの一体感向上に繋げるためには、いくつかのポイントがあります。
- 強制しないこと: 働く環境は非常にプライベートな情報を含むため、共有はあくまでもメンバーの「任意」とすることが最も重要です。強制参加にすると、プライバシーへの懸念から参加をためらったり、不満に繋がったりする可能性があります。
- 目的を明確に伝えること: なぜこのような取り組みを行うのか(例: 相互理解を深め、心理的安全性を高めるため)、その目的をチーム全体に丁寧に説明します。目的が理解されれば、メンバーも安心して参加しやすくなります。
- リーダーが率先して行うこと: チームリーダーやマネージャーがまずは自身の働く環境を共有し、楽しんでいる様子を見せることで、メンバーも参加しやすくなります。
- カジュアルに始めること: 最初から完璧な形式を求めるのではなく、チャットでの簡単な写真共有など、手軽な方法から試してみるのが良いでしょう。徐々にチームに合わせた形式に発展させていくことができます。
- 定期的な機会を設けること: 一度きりで終わらせず、例えば週に一度「デスクのお気に入り紹介デー」を設けるなど、定期的に共有できる機会を作ることで、継続的な交流が促されます。
- 多様性とプライバシーへの配慮: メンバーの働く環境は多様であることを理解し、環境の優劣をつけるようなコメントは避けます。また、共有する情報の範囲は個人の判断に委ね、無理に詳細を共有させないようにします。
懸念される点としては、プライバシーの問題や、働く環境による「格差」を感じさせてしまう可能性が挙げられます。これに対しては、前述のように共有を任意とすること、高価な機材や整った環境でなくても参加しやすいテーマを設定すること(例: お気に入りのマグカップ、働く時のBGMなど)、そして「それぞれの工夫」や「人となり」に焦点を当て、温かい雰囲気で交流することが重要です。
まとめ
リモートワーク環境下において、メンバーの働く環境を共有する取り組みは、一見業務とは直接関係ないように見えるかもしれません。しかし、この取り組みを通じてメンバー間の相互理解が深まり、個々の人間性が垣間見えることで親近感が生まれ、チーム内の繋がりや心理的安全性が向上することが期待できます。
特別なツールは不要で、既存のコミュニケーションツールを活用し、任意参加という形で手軽に始めることができます。プライバシーへの配慮を忘れず、チームの雰囲気に合わせた形で継続的に実施することで、リモートチームの一体感やエンゲージメントを高める有効な手段となるでしょう。ぜひ、チームの状況に合わせて導入を検討してみてはいかがでしょうか。